核協議大詰めで高まる米・イラン間の緊張

イラン核協議 コラム
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イラクで米国権益に対する攻撃が激化

米・イラン核協議は4月6日の第1回から6月20日までに6回開催されています。この6回目の協議が終了した時点で、イラン政府代表のアラグチ外務次官は、「決定を下すため」に帰国すると発言し、協議が最終段階に入っていることを示唆していました。

しかし、その後、イランは態度を硬化させ、今のところ7回目の協議の日程は決まっていません。

それどころか6月27日にアラグチ外務次官は、「もう交渉は十分やった。各国は決断を下す時だ」と述べ、イラン政府のラビエイ報道官も29日に、「わが国の立場はすべての関係国に明確なはずだ。イランは米国を含めた相手国の決定を待っている」と言い出して、7回目の協議を行うのではなく、もう各国が決定を下す時だ、と一方的に主張し始めたのです。

また、イランのお隣のイラクでは、イランが支援しているシーア派民兵勢力による米国権益に対する攻撃が激化しており、軍事的な緊張が高まっています。

6月26日にイラク北部のエルビルというところで、爆発物を搭載した3機の無人機による攻撃がありました。この近くには米総領事館の新しい施設が建設中だったこともあって、米国を標的にした攻撃だと考えられました。

これを受けて6月27日には米軍がイラクとシリアの国境付近にあるシーア派民兵組織の軍事拠点を空爆。実は、今年に入ってからイラクで米国権益を狙ったこの種の攻撃は40回以上に上っています。しかも最近は、昨年まで主流だったロケット弾や迫撃砲に代わり、無人機による自爆攻撃が主流となり、米軍を悩ませていました。

米国とイランの核協議が大詰めを迎える中、イランは「早く決断を下せ」と主張し、一方でイラクではイラン系武装勢力による米軍に対する挑発行動が激化しています。これはどう関係しているのでしょうか?

米・イラン双方の思惑は何か?

イランは、「これ以上の交渉はない」と態度を硬化させることで、“米国が制裁解除に踏み切らなければ核協議は破綻するぞ”とバイデン政権に対して揺さぶりをかけ始めたようです。核協議の関係者の多くが“次の7回目の協議で合意できるのではないか”と考えていた矢先に、イランは、“もうこれ以上の協議はしない。米国が制裁を解除するか、協議破綻かどちらかだ”と瀬戸際戦術を仕掛けてきたと考えられます。

またイランは、核協議での揺さぶりと合わせて、イラクでは米軍基地への無人機やロケット弾による攻撃を激化させることで、バイデン政権に対する圧力をさらに強めようとしている可能性があります。

こうした行動の背景を考えるうえで、米国とイランの双方が、現在の核協議をどのように位置づけているのか、また、この核協議を通じて何を勝ち取ろうとしているのかを整理しておくことが大事です。

核合意とはもともと、イランが核開発を一定レベルに制限することを約束する見返りとして、経済制裁の解除などによる経済的な利益を得られるように設計されていました。今は、イランが合意違反をして核開発を進めており、米国は合意から離脱してイランに経済制裁をかけている状態です。

米国にとっては、核合意を復活させることで、“イランの核開発を核合意で規定されたレベルまで制限すること”が目標です。一方、イランは、“核合意復帰を通じて米国による経済制裁を解除すること”が目標です。

バイデン政権はまた、核合意への復帰を皮切りに、ミサイル開発や代理勢力への支援などを含めた他の諸問題に関する交渉に進むことを狙っていますが、イラン側は、核合意に復帰することで経済制裁を解除させたら最後、核問題以外の新たな交渉に応じるつもりはありません。

米国は、核合意復帰を新たな交渉のための“スタート”と考えているのに対し、イラン側は核合意復帰を“ゴール”と考えてそれ以上の交渉はやりたくありません。

特にイランは、核合意復帰後はそれ以上米国と交渉したくないため、合意復帰前に可能な限りすべての経済制裁を解除させたいと考えています。このため、交渉の最終フェーズに入ったことで、イランは制裁をなるべく多く解除させるために、米国に対する圧力を強めているのだと思います。

今後数週間米・イラン間の危機が高まる可能性も

イランは、ここで一度交渉を決裂させるくらい緊張を高めてくる可能性があるのではないか、と思っています。ですから、イラクでも、米軍や米国大使館に対する嫌がらせのような攻撃が“これでもか”と続きます。

一方、バイデン政権側も現在次の対応を検討しており、イランのペースに巻き込まれないようにするために、一度協議を中断して何らかの圧力をかけてくる可能性も考えられるでしょう。イラクでは米軍に対する攻撃が激化していますので、またシリアやイラクでシーア派民兵勢力に対する報復攻撃がなされる可能性もあります。

今後数週間は、米・イラン両国間の駆け引きや揺さぶり策の一環として、何らかの危機が高まる可能性がありますので、注意が必要です。

画像:Shutterstock


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